エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 その答えに眉を寄せる。稀一くんこそ、誰に対しても簡単にそういうことをしないでほしい。少なくとも私に対しては。振り回さないでよ。

 そうはいっても稀一くんが再び渡米した後、彼とはメールなどで連絡を取り合い、なんだかんだで縁を切れなかったのだから、私はずっと彼に囚われ続けることになる。

 母が病気で入院し、亡くなったときも寄り添って支えてもらい本当に助けられた。

 そんな稀一くんと本格的に距離を置こうと決めたのは、帰国して弁護士としての経験を積んでいた稀一くんが、彼のお父さんと共に本格的に父の会社の顧問弁護士として働き始めた頃だ。

 父と仕事の話をする稀一くんが、なんだか知らない人のように思えた。逆に稀一くんには声をかけられる機会が多くなり、それは私が幼馴染みかつ仕事付き合いのある相手の娘にもなったからなのだと思うと素直に喜べない。

 稀一くんの私への態度は昔と変わらず優しくて、逆にそれが彼の特別にけっしてなれないのだと思い知った。

 稀一くんの周りには、綺麗な人がたくさんいて、幼馴染みとはいえ彼とは住む世界が違い過ぎる。

 いつまでも稀一くんへの想いを断てずにいたら、私は結婚はおろか恋人さえできないと本気で悩み、断腸の思いで彼からの誘いを断ったり、極力会わないようにした。

 ところが、父が倒れたのをきっかけに稀一くんにまた甘えてしまい最終的には結婚する流れになったのだから、本当になにがきっかけでどうなるのか人生わからない。
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