エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 私の心配をよそに、稀一くんはそっと私の頭を撫でた。

『……ありがとう』

 彼に触れられて心臓が暴れだす。彼にとってはなんでもないことで、もっと言えばむしろこれは子ども扱いだ。

『そ、それにしても小学生とはいえ好きだからって消しゴムを隠して意地悪するなんてひどいよね』

『好きな子に意地悪する男は多いけれど限度があるよな』

 苦笑しつつ同意する稀一くんに私はぎこちなく尋ねる。

『稀一くんも?』

『俺は、好きな相手には優しくするし誰よりも大事にするよ』

 臆面なく言えてしまうのが同年代とは違う彼の魅力だ。自分のことを言われたわけでもないのに、妙な気恥ずかしさで頬が熱くなる。

 そのとき彼が腕時計を確認したのでそろそろ行くのだと察した。

 立ち上がり彼を見送ろうと後に続く。そして彼が部屋を出る前に改めて声をかけた。

『稀一くん、ありがとう。久しぶりにたくさん話せて嬉しかった』

『俺もひなと会えてよかった。ただ、男を簡単に自室に招き入れる真似は慎んだ方がいい』

 やってきた本人がそれを言うのかと私は唇を尖らせる。

『簡単じゃないよ。身内以外で入れる人は誰もいないし、稀一くんは特別なの』

 結局彼にとって私は、いつまでも心配の絶えない妹のような存在なのだろう。

 ところが前触れもなく突然、彼に抱きしめられ、私はパニックに陥りそうになった。

『な、なに?』

 私とは真逆で稀一くんは平然と返す。

『ん? アメリカらしく別れの挨拶を示してみた』
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