御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
「来ないつもりですか? 私はそれでもかまいませんよ。会社には壊滅的な方向感覚を自覚しているにも関わらず無謀にも一人で1時間も迷子になった街をスマホなしで歩きまわろうとする向こう見ずな性格という事を報告いたします」と彼は私を脅してきた。

私はまだ内定をもらっているだけだ。内定取り消しもあるかもしれない。

後先考えない性格だと伝えられるなんて溜まったもんじゃない。

この旅行は覆面調査だとばかり思っていたが、私が試験されているのかもしれない。
こんな大掛かりな試験を行うとは大手の採用試験を舐めていた。

そりゃあ、たった1回の採用試験で決まるわけないよね。

彼は私の方に右手を差し伸べた。

仕方なく私はその手に両手で捕まり、まるで初めてスケートを習う人のようにへっぴり腰で空を見上げながらガラス板の上に足を踏み入れた。

「空も美しいですが真下を見るべきです。そのための通路なんですから」

彼の声はどことなく楽し気に聞こえる。
少し目線を彼の方に向けると柔らかな笑みを浮かべる彼の顔が一瞬見えた気がした。

「どうしても見なきゃダメですか?」

「見た方がいいと助言しているまでです。氷のように割れる心配はありません。ほら見てください。人が蟻のようですよ」
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