S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「似合ってないからじゃなくて?」
「違うでしょ。かわいいなって」
「まさか」


菜乃花は朋久にだけでなく、この法律事務所内でも妹ポジションだ。いつも穏やかな眼差しでニコニコと笑いかけてくるのがなによりの証拠。決して女性に対する目ではない。


「無自覚ちゃんは罪だなぁ。この前のバレンタインだって、菜乃花が誰かに本命チョコをあげてないか、みんなしきりに気にしてたんだから」
「またまたぁ、そういう持ち上げはいらないから」
「私が菜乃花を持ち上げてどうするのよ」


たしかにそうだけれど。


「とにかくデートではありません」


これは本当だ。
今夜は朋久の両親に会いに実家に行く予定になっている。――結婚を報告するために。


「へぇ、そうなんだ」


納得していない様子の口調のため、詮索に耐えきれず台車を押しはじめる。


「これ、置いてきちゃうね」


そそくさと里恵の前から退散した。
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