S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

隣にはこの前事務所ビルにいた美しい女性、藤谷の娘が座っていた。


「そうなんだ。娘もぜひにとね」
「こんにちは。父から京極さんのフィアンセと会うと伺ったので、私もお会いしたくて」


彼女の視線が腰に回されている朋久の手から、菜乃花の顔に移る。穏やかに微笑んでいるようで目は笑っていない。


「は、はじめまして、若槻菜乃花と申します」
「ほう、キミが京極くんの」


藤谷の目線が朋久と菜乃花の間を何度か行き来する。悪意は感じないが、見定められているようで落ち着かない。


「ともかくふたりとも座ってくれたまえ」
「失礼します」


朋久が引いてくれた椅子に腰を下ろす。スタッフに注文を聞かれ、朋久とメニューを一緒に覗き込んだ。
色鮮やかな和菓子が並んでいたため、本来の目的を忘れてつい心が弾む。藤谷と綾美の前にも、すでに和菓子がひとつずつ並んでいた。
< 114 / 300 >

この作品をシェア

pagetop