S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
両腕を広げてふわりと抱きしめられた瞬間、限界に近いスピードで脈が打った。このまま死んでも本望とさえ感じる。
朋久への想いは相当重症だ。
彼の腕の中で体が硬直し、腕を回すなんて芸当はとてもじゃないができない。自分の胸の前で手を重ねて、ただただ息をじっとひそめた。
どのくらいの時間、彼に抱きしめられていたのだろう。ふとその腕が解かれ、朋久が一歩離れる。
「俺もすぐに着替えてくる」
「あ、う、うん」
目も合わせられずに俯いたら、朋久が頭をポンと撫でた。
彼の耳が微かに赤いのは気のせいか。
「わ、私はそれじゃ朝ごはん作ってるね」
「サンキュ。着替えたら俺も作るよ」
朋久が自室に向かってから、肩を上下させてふぅと細く長く息を吐く。決して大げさではなく、これまで生きてきた中で一番緊張した時間だった。
朋久がいきなり〝かわいい〟だの〝似合ってる〟などと言ったのは、菜乃花を妻らしく扱ってみただけだろう。妻の地位を与えた菜乃花に、それなりの対応をしているだけ。
彼の言葉に浮かれそうになった気分を必死に押しとどめた。