S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
一礼して秘書が部屋を出たのを見計らい、デスクに隠れた菜乃花のそばに屈み込む。
「隠れる必要なんてないだろう?」
ふたりの結婚が内密ならまだしも、所内に知れ渡っているのだから。
「仕事中に会うのは不謹慎だから」
「だったら、菜乃を俺の秘書に任命しようか。そうすれば、出張にも一緒に連れて行けるし、普段はこの部屋で一緒に過ごせる。名案じゃないか?」
四六時中、菜乃花をそばに置き、顔を見ていたいとは相当重症だ。
「それはダメ。私の心臓が持たないから」
どういう意味かと首を傾げたら、菜乃花は困ったように笑った。
「ドキドキしちゃって仕事にならない」
なんてかわいいのか。なんて愛しいのか。
こんなにも愛らしい存在が、二十年以上も前からそばにいたことに気づいたのが最近なのだから。自分の愚かさが情けなくなる。
「菜乃」
優しく名前を呼んで彼女の頬に手を添える。
「俺が不在の二日間、おりこうにしてるんだぞ」
「もうっ、子ども扱いしないで」
菜乃が拗ねたように笑う。デスクに隠れたまま、もう一度触れるだけのキスをした。