S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

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バタンと音を立てて玄関のドアが閉まる音を、朋久はリビングのソファに膝を突き呆然としながら聞いていた。

菜乃花が悲鳴にも似た叫び声をあげなければ、我を失っていた朋久はきっと無理やり抱いていたに違いない。

ソファを拳で殴りつけ、崩れるようにして座り込んだ。

(菜乃に好きなヤツが? まさか。そんなことがあってたまるか)

即座に疑惑を否定しにかかるが、ここ数週間、菜乃花に避けられている現状がそれを裏付けているようにも考えられた。

菜乃花の興味が自分以外に向くはずはないという根拠のない自信は、朋久の驕りだったのではないか。菜乃花はそれに嫌気が差して心変わりしたのかもしれない。

薄っすらと涙を浮かべながら朋久を拒絶した彼女を思い出し、捻り潰されたような痛みが胸を襲う。その苦痛から逃れたくて、頭を抱えて髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。


「菜乃……」
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