S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
心と裏腹にそうしなければならない事実に胸を押しつぶされそうだった。
「朋くん! やめて!」
声に限りに叫び、彼を押しのける。
菜乃花の勢いに驚いたのか、ほんの一瞬朋久の力が弱まった隙を突き、彼の包囲から逃れる。転がるようにしてソファを下り、バッグを引っ掴んでリビングを出た。
「菜乃!」
背中に苦しみの滲んだ朋久の切ない声が掛けられたが、それを振りきるようにして玄関を飛び出す。エレベーターに駆け込み、一階までノンストップ。残っている力を振り絞ってエントランスから街に向かって走った。――朋久の妹という事実から逃げるように。
そうして逃れようがどうにもならないと分かっているのに、足を止めることはできなかった。