S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

*****

「民法第643条により、代表取締役会と会社との法律関係は委任契約の関係に立ちます。委任契約の解除に関して、各当事者がいつでもその解除をすることができると、民法第651条第1項で規定しているんです」


黒でシックに統一された、京極総合法律事務所の静かな応接室に朋久の落ち着いた声が響く。その隣にはパラリーガルと呼ばれる法律専門の男性アシスタント、野々原(ののはら)が控えていた。


「つまり、解任は可能なんですか?」
「ええ、そうなりますね」


向かい合ったソファで身を乗り出した、相談者である四十代の男性に深く頷いた。

男性は家族で会社経営をしているが、代表取締役を務めている父親が先日、医師から認知症であるとの診断を受けた。任期中だが、病気を理由に代表取締役から解任できるかとの相談であり、可能な場合の手続き方法について相談してきたのだ。


「注意が必要なのは解任の時期です」


朋久の目が精彩を放つ。膝の上に置いていた手をゆっくりと組みなおした。
< 46 / 300 >

この作品をシェア

pagetop