S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
綾美も、父親からこんな調子で『誰か気になる人はいないのか』とせっつかれ、うっかり知っている朋久の名前を出したのではないか。止むに止まれず、ここまでついてきたのかもしれない。
朋久がそう察したそのとき。
「お父様、娘自慢はやめて。恥ずかしいから」
小さい声ながらも、はっきりと綾美が藤谷を制する。意外としっかりしているのは、藤谷がたった今言ったとおりらしい。
「だけどな、お前が」
「私がきちんと自分で言います」
「おお、そうかそうか。それは悪かった。年寄りが口を出す場面ではないな」
凛とした様子で言い含められた藤谷は、肩をすくめて椅子に深く腰を掛けなおした。
「京極さん、私と結婚してください」
彼女の唐突なプロポーズに驚いたのは朋久だけではない。藤谷もいつもおとなしい娘の大胆な発言に「は?」と声を漏らしたくらいだ。
しかし次の瞬間には、「いやぁ、よく言った! わが娘ながらあっぱれ!」と隣に座る綾美の背中をトンと叩く。