S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
「ち、違うよ、そうじゃなくて。今日、事務所のエントランスで朋くんが一緒にいた綺麗な女性って、もしかしたら朋くんの好きな人とか紹介されてこれから付き合う人なのかなーなんて思って」
朋久に対する自分の気持ちが現れないように細心の注意を払いながら、できる限りライトな口調で言う。もちろん笑顔もつけ、そんな場面を見てもなんともないけれどという空気も醸し出して。恋心を隠そうと必死だ。
「菜乃は察しがいいな」
やはりそうだった。
ギュッと握り潰されたように胸が痛い。しかし朋久の次の言葉が菜乃花に首を傾げさせる。
「一部分を除いては、だけど」
「え……?」
「大学時代にお世話になった藤谷教授とその娘。俺に娘さんとの結婚を勧めてきた」
「……それで朋くんはどうするの?」
息を詰めて尋ねる。全身に緊張が走って体が小刻みに震えるのが自分でもわかった。
その女性との結婚を考えるのか否か。ドキドキと胸が張り詰める。