S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

ネクタイを緩めながらソファに座った彼の隣に菜乃花も腰を下ろす。
朋久の目が〝先にどうぞ〟と言っているようだったため、遠慮なく自分から口火を切る。


「私、ここを出ていこうかなって」
「……は?」


朋久の動きが止まる。いきなり目つきが鋭くなり、叱られる子どもの気分だ。


「なに言ってんだ」
「ほら、私も春には社会人になって三年目になるし、いつまでも朋くんのところでお世話になるわけにはいかないなーって」
「……好きな男でもできたのか」


朋久の瞳がわずかに揺れた。
その言葉に過剰反応して心臓がどっくんと音を立てて跳ねる。今まさに目の前にその〝好きな男〟がいるため、視線が激しく泳いだ。


「菜乃?」


言葉に詰まる菜乃花に朋久が顔をぐっと近づける。
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