S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

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翌日、バレンタインデー当日――。
四月入所の新人向けの研修資料を作成するのは、菜乃花の仕事のひとつ。先輩弁護士による講義や演習、英語教育プログラム、ビジネスマナー講習など多岐にわたるため、その資料も膨大である。

入所までまだ一カ月半あるが、準備に早すぎるということはない。

パソコンで閲覧して進める形式はギリギリでもなんとかなるが、紙ベースのものはひとり分ずつファイリングしておく必要がある。

事務所内は普段となんら変わらないようでいて、注意深く観察するとどことなく浮足立っている。
昨年同様、菜乃花のところに「京極先生に渡してもらえますか?」と女子所員が何人かチョコレートを持ってきた。

里恵は仕事が終わったら城下とデートするんだと朝からご機嫌だ。

菜乃花も、例年とは少し違うバレンタインデーを前に少なからずソワソワしていた。初めてクッキーを作ったのもそうだし、形ばかりの〝恋人〟になったから。
お昼過ぎに朋久から『今夜は遅くならずに帰れそうだ』とメッセージが入ったから、余計に落ち着かない。
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