激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

「ごめんなさい。調理するし子供達と遊ぶこともあるから、職場じゃ外してるの」
「それは構わないよ。でも今は?」
「あ、……」
「今日一緒だった彼らは、千花が結婚してるって知らないってことか」

何も言えずに俯いてしまった千花にやるせなさが募る。

やはり彼女はこの結婚に納得していなかったのか。それとも外の広い世界を知り、結婚したことを後悔しているのか。

弥生が姿を消し、すぐに千花が新たな婚約者としてあてがわれた。弥生の時と同様、両親に話をして結婚の話を反故にしようと思っていた。

当時まだ未成年だった千花を不憫に思ったはずなのに、それをしなかったのは間違いなく自分のエゴだ。

わかってはいるものの、千花を手に入れた今の生活が幸せで、彼女を失いたくない。

「…結婚したこと、後悔してる?」
「してないっ」

颯真の苦しげな問いかけに、千花はハッと顔を上げて目を見開くと、大きく首を振って否定した。

それならどうして仕事が終わったあとも指輪をしていないのか。なぜ同僚は千花を既婚者だと知らないのか。

あの矢上という男が千花を少なからず想っていることに気付いていないなんて、無防備にも程がある。

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