激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

「お風呂先にどうぞ」
「一緒に入る?」
「…っ、入りません!」

しかし、こうして反応に困ってしまうような冗談を言ってくるのだけは頂けない。

こんなこと、婚約している時にはなかった。
いつだって大人で紳士だったし、政略結婚という事情もあって自分たちの間には薄くはない見えない壁があったはず。

それなのに、ウィーンから帰ってきてからというもの、本物の新婚夫婦のような生活を送っている。

颯真がシャワーを浴びる音を聞きながら、千花は自室のチェストにしまってあるジュエリーボックスを取り出した。

マーガレットがモチーフとなったピンクサファイヤのネックレスと、同じモチーフの付いたイヤリング。さらに同じ花が2輪付いた指輪。

ウィーンの老舗宝飾店の『Mコレクション』と呼ばれる最高峰のシリーズで、颯真が千花にプレゼントしてくれたものだ。

新婚旅行中お土産を買う途中でふらっと宝飾店の本店に立ち寄ったかと思えば、急に颯真が『好きなものを選んで』と言ってきた。

『婚約指輪も贈れなかったし、結婚指輪だって急に選ぶことになって遠慮してただろ?』

確かに婚約は内々にではあるものの勝手に発表されていたからわざわざ指輪を貰うこともなかったし、結婚準備で指輪を買うとなったときも恐れ多くて一番シンプルなものを選んだ。

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