バカ恋ばなし
石家先生という若くて爽やかなイケメンがいなくなった病棟は、いくらか活気が落ちたように感じた。米倉主任や北島さん、高木さんは先生がいた時よりもおとなしくなった感じだった。あの悪魔田島先輩は以前より口調がきつくなった。私も石家先生というステキな存在がいたから、この4か月間女性臭くて怖い病棟で楽しさを見出して頑張れたのにいなくなった今は、気持ちが沈み、仕事への意欲が減っていった。何にも目標や楽しみのない病棟にいるとつまんないし、北島さんや田島先輩から厳しい言葉をかけられると余計意欲が減って早く病棟を出て家に帰りたくなった。
(石家先生に会いたい……あのステキな笑顔に会いたい……頭を撫でてほしい……)
朝自宅を出て車を運転して出勤しているとき、病院到着して更衣室で白衣へ着替えているとき、病棟で深夜勤務者から申し送りを聞いているとき、点滴の準備をしているとき、病室で患者のバイタルサイン測定をしているとき、患者の身体を熱いお湯で清拭をしているとき……頭の中ではずっと石家先生の爽やかな笑顔を思い浮かべていた。
そんな想いを強く抱き続けていた1月中旬頃、展開があった。
月曜日の深夜勤務明けでヘトヘトに疲れて10:00頃帰宅し、シャワーを浴びてから自室のベッドへなだれ込むように入って爆睡をした。母親から「夕飯が出来たので降りてきて!」と大声で呼ばれて起きたのは19:00頃だった。寝ぼけ面で階段を降り、1階のダイニングで家族と夕飯を摂ってから、冴えない表情でまた2階の自室に戻っていった。
自室に入って電灯を付け、ドアをバタンと閉めたとき、ふと頭の中を過った。
(先生に電話をしてみようかな……)
1月に入って救命救急部で多忙な日々を送っている石家先生へ電話をかけることには気を遣って躊躇をしていた。
「元気にしているか、1回くらいは電話してもいいよね……」
自室にある目覚まし時計の針は21:00を指していた。私は机の引き出しから石家先生が書いてくれた電話番号のメモ紙を出して、万年筆の黒いインクがにじみ出た電話番号の文字をジッと見つめた。少しずつ胸のドキドキと高鳴りが強くなるのを感じた。私の家の固定電話は1階に親機、2階に子機があり、自室を出てドアのすぐ隣の壁に子機が設置されていた。私は電話番号のメモを右手に握りしめながらドアを開け、左手で子機の受話器を取った。電話番号の数字を一つ一つジッと確認しながら電話のプッシュボタンをゆっくり押した。この時点で胸の高鳴りは最高潮に達していた。
ドキドキと胸の高鳴りを感じながら左耳で呼び出し音をジッと聞いていた。
「トぅルルルルル……トぅルルルルル……トぅルルルルル……トぅルルルルル……」
(出てくれないかな……やっぱりまだ仕事から帰らないかな……ダメかな……)
私の心は『電話に出てほしい。』という願いと『やっぱりダメなのかな』という絶望的な気持ちが入り混じり、ドキドキドキドキと激しく高鳴っていた。
(やっぱり出ないかな……)
呼び出し音が鳴り響く受話器を左手で握りしめながら絶望的な気持ちになりかけていたときだった。
(石家先生に会いたい……あのステキな笑顔に会いたい……頭を撫でてほしい……)
朝自宅を出て車を運転して出勤しているとき、病院到着して更衣室で白衣へ着替えているとき、病棟で深夜勤務者から申し送りを聞いているとき、点滴の準備をしているとき、病室で患者のバイタルサイン測定をしているとき、患者の身体を熱いお湯で清拭をしているとき……頭の中ではずっと石家先生の爽やかな笑顔を思い浮かべていた。
そんな想いを強く抱き続けていた1月中旬頃、展開があった。
月曜日の深夜勤務明けでヘトヘトに疲れて10:00頃帰宅し、シャワーを浴びてから自室のベッドへなだれ込むように入って爆睡をした。母親から「夕飯が出来たので降りてきて!」と大声で呼ばれて起きたのは19:00頃だった。寝ぼけ面で階段を降り、1階のダイニングで家族と夕飯を摂ってから、冴えない表情でまた2階の自室に戻っていった。
自室に入って電灯を付け、ドアをバタンと閉めたとき、ふと頭の中を過った。
(先生に電話をしてみようかな……)
1月に入って救命救急部で多忙な日々を送っている石家先生へ電話をかけることには気を遣って躊躇をしていた。
「元気にしているか、1回くらいは電話してもいいよね……」
自室にある目覚まし時計の針は21:00を指していた。私は机の引き出しから石家先生が書いてくれた電話番号のメモ紙を出して、万年筆の黒いインクがにじみ出た電話番号の文字をジッと見つめた。少しずつ胸のドキドキと高鳴りが強くなるのを感じた。私の家の固定電話は1階に親機、2階に子機があり、自室を出てドアのすぐ隣の壁に子機が設置されていた。私は電話番号のメモを右手に握りしめながらドアを開け、左手で子機の受話器を取った。電話番号の数字を一つ一つジッと確認しながら電話のプッシュボタンをゆっくり押した。この時点で胸の高鳴りは最高潮に達していた。
ドキドキと胸の高鳴りを感じながら左耳で呼び出し音をジッと聞いていた。
「トぅルルルルル……トぅルルルルル……トぅルルルルル……トぅルルルルル……」
(出てくれないかな……やっぱりまだ仕事から帰らないかな……ダメかな……)
私の心は『電話に出てほしい。』という願いと『やっぱりダメなのかな』という絶望的な気持ちが入り混じり、ドキドキドキドキと激しく高鳴っていた。
(やっぱり出ないかな……)
呼び出し音が鳴り響く受話器を左手で握りしめながら絶望的な気持ちになりかけていたときだった。