バカ恋ばなし
部屋に入ると、煙草の臭いが強く鼻を突いた。部屋の中は相変わらず散らかり放題になっており、白衣や洋服は脱ぎっぱなし、教科書や漫画は開いた状態で散乱していた。テーブルの上にある灰皿の中には煙草の吸殻がそのまま廃棄しておらず山積みの状態になっていた。石家先生は赤いダウンジャケットを脱いで床に放り投げ、服のまま敷布団に大の字で横になった。私は横たわる先生の隣に正座をした。そのとき、石家先生はあの時と同じように左腕を引っ張り自分の胸元に私を引き寄せた。私の左頬が石家先生の胸板に当たった。石家先生はそのまま私の背中に手を回し、抱き寄せてきた。私はされるがままになっていた。石家先生の胸の鼓動と体温の心地よい暖かさが左頬から伝わってきた。とてつもない緊張とトキメキが身体中をグルグルと回っていると同時に温かくて優しい心地良さを感じた。石家先生は左手で私の右頬に触れて髪をかき上げ、私の顔を自分の方に向けた。そして自分の顔を近づけ、唇に触れた。お酒と煙草の臭いが鼻を突いた。そして先生の舌がヌルっと私の口の中に入ってきた。煙草の味が一気に口の中に広がって行くのを感じた。今度は以前よりも長い時間舌を入れてきた。数秒間、以前よりも長い時間私たちは唇を重ねていた。そして石家先生は私を抱き寄せたまま身体の向きを変え、私の上に乗っかってきた。
(え、え、え、え、えぇー!!!こ、こ、こ、こ、これは!!!!わ、わ、私、どうなっちゃうのー???!!!!)
以前よりもスゴイ展開になる予感を察知し、私の胸ははち切れそうなくらいドキドキと鼓動が激しく鳴った。抵抗する余裕もなく、身体は硬直したまま動かなかった。石家先生は私の上に乗ったままの状態でまた唇を重ねてきた。私はそのまま目を閉じて冷凍マグロのように動かなかった。そして、ゆっくり私の羽織っていたコートを脱がせ、ワンピーズの裾の中に手を入れてきた。先生の温かい手が太ももからお腹のあたりをまさぐり出し、その温かさが心地良く感じた。
その夜、私は22歳にして初めて男の人と夜を過ごした。でも初めての体験は、正直失敗に終わった。 
私が「痛い痛い!!」と騒ぎだし、石家先生も酔っぱらっているのもあり「もういいや」と途中で断念したのだった。
石家先生の部屋を出て家に帰り着いたのはもう朝4:00を回っていた。初めての朝帰りだった。
当然その日は日勤で遅刻寸前で病棟入りし、米倉主任にまたまたこっぴどく怒られたのだった。
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