snowscape~彼と彼女の事情~
「いやぁ~マジでびっくりした!!亜紀チャンからキスだなんて~」
車の中は、ありえないほどの寒さで、タバコに火をつけ吸い込んだそれを吐き出してみれば、煙と吐く息の白さが混じっている
「つーか聞いてる?」
もちろん、この寒さなど今は関係ないほどの隼人は燃え上っているのだろう
いや、今はきっと北極にいたとしても彼は寒さなど感じないのだろう
俺よりも遥かに薄着のくせに……
心が燃えれば、体も温かいのか?なんて不思議にも思ったが、むしろそんな感情を持つことさえ俺にはない事だと考えるのを止めた。
「キス魔なんじゃね~の?」
隼人のテンションがやたら気に障ってそう言葉を漏らしてみれば「そんな子じゃね~よ」と返されてしまう。
まぁ、キス魔じゃなくてもそんな行動に走った亜紀は“そんな子じゃねぇ~”と隼人が全否定するほど純じゃないだろ?とも思ったが俺には関係のないことだ。
「純粋かぁ……」
「はっ?」
その声と共にブレーキを踏んだのであろう、シートベルトを装着していなかった俺は体が前につんのべって、そのまま隼人を睨みつけた
「黄色は進めじゃねぇ~のかよ」
「つーか、お前が『純粋かぁ……』なんてぼやくからだよ!何浸ってんだよ、らしくねぇ~な」
そう言いながらため息を落とせば「全く、あぶねぇ~」と信号が青に変わったと共にアクセルを強く踏み込んだ。
いや、こっちがため息をつきたいと思った。
窓の方へと視線を向ければ、スピードの出し過ぎだろう、
景色なんてそんないいものは見えなくてその世界は真っ白い世界だけになっている。
「なぁ……友里ってよ、雪みたいな奴じゃねぇ?」
「雪っ?なんだそれ……飲みすぎたか?」
車の中は隼人の笑い声が響き渡っている
そんな面白いこと言ったつもりでもないのだけれど「わかんねぇ~奴だな」と小さく呟いてみれば、自分でもなぜこんなことを考えているのかさえ分からなかった。