可愛いキミは、僕だけの××



私が先輩と話したことがあるのは、
たった一度だけ。


入学式当日、迷子の子供を交番に連れて行ったら遅刻してしまったんだ。



「ああ、どうしよう……」



正門が閉まって入れなくて、どうすればいいか分からなかった。

これじゃ式は出れない。


途方に暮れていた時、偶然先輩に会った。


制服のネクタイの色が違うから、なんとなく上級生だと思ったよ。

「どうした?」


少し心配そうに私の顔を覗き込む彼の美しさに、
一瞬で惹き込まれて。


こんな綺麗な顔、生まれて初めて見た!


……って、今はそれどころじゃない。

私は泣きそうになりながら、目の前の先輩に事情を説明した。



「なるほど。俺も寝坊して、今来たところだ」

「そうなんですね……」



「俺は自業自得だけど、君は新入生だし遅刻したら可哀想だよな。大丈夫、俺が絶対間に合わせる」



そう言うと、先輩は軽々と正門の上に飛び乗ってみせた。


え、えっっ!!?


いとも簡単にやってたけど、普通に先輩より高い塀を乗り越えるなんて……運動神経どうなってるの?


驚きを隠せない私を上から見下ろし、大きな手を差し伸べてくれる。




「ほら、捕まって」


「は、はいっ!」



おそるおそる手を差し出すとぐいっ、と力強く引っ張り中へ入れてくれたんだ。


た、助かった……!


お礼を言って頭を下げると先輩は別に、と言ってそのまま歩いて行ってしまった。


カッコいい人だったなぁ。


あの日から、私は先輩を目で追っている。



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