魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 ふと、現実へ引き戻される感覚。トラヴィスは一つだけ気になっていたことをレインに尋ねる。

「レイン、()てもいいか?」
 彼の胸元から顔をあげるようなことをせずに、左手を差し出した。そのままトラヴィスは彼女の左手をそっと握る。

「魔力鑑定……」

 彼が一つだけ恐れていることがあるとしたら、それはやはり彼女を失うこと。そしてその原因の一つが彼女の魔力が枯渇している、ということで。できることならば原因は一つ一つ潰していきたい、と思うわけで。
 だから、あの残された資料の通りの行為をしたうえで、彼女の魔力が戻っていなかったら、という最悪のシナリオも頭の片隅には浮かんでいた。

「なんだって……。いや、本当に?」
 彼の独り言が盛大すぎて、レインも気になってしまう。思わず顔を上げる。

「トラヴィス様?」

「とりあえず、君の魔力は戻っている。枯渇状態にはなっていないと思うのだが」
 魔力無限大の場合、その魔力が千を下回ると枯渇状態と呼ぶらしい。

「とりあえず、六が六桁だな。さすがだな」
 六が六桁。魔力無限大は九が六桁。昨日のことを考えると、一回につきそれだけ回復する、ということか。

「トラヴィスさまっ」

 恐らく、彼が考えていることを察したのだろう。すぐに研究モードに入るトラヴィス。すでにそこには甘い雰囲気など微塵も無い。
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