魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 嬉しそうにご飯を食べるレインを、ライトは目を細めて眺めていた。妹のこの幸せそうな笑顔を守りたいと思う。

「レインちゃんも頑張ってくれたからね。これは教え甲斐もあるってもんだね」
 祖母も目尻を下げていた。久しぶりに会った孫をここまで受け入れてくれる懐の深さにも感謝をしたい。

「お兄様。今日は、薬草に使えるきのこと毒になるきのこを教えていただきました」

「そうか、早速教えてもらったのか」

「はい。そしてこれらが食べられるきのこです。きのこはばっちりですよ」

「レインちゃんは覚えが早いね」
 彼女が十五で学園を卒業した理由は、魔力が無限大の他に、その記憶力も評価されていた。

「あの。レインのことをどうかよろしくお願いします」
 ライトはここで改めて頭を下げた。

「レインちゃんは私の孫だからね。だけどね、レインちゃんが私の孫ということは、レインちゃんの兄であるライトくんも私の孫になるね」
 祖母の言葉がライトの胸に突き刺さる。

「そうですね。私もお兄様も、おばあさまの孫ですね」
 レインが笑顔で言う。

 ライトはスプーンを運んでいた手をふと止めた。家族を失うことが続いていた。だが、こうやって新しい家族として迎え入れてもらえたということは、少し嬉しいかもしれない。いや、少しではない。かなり。
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