魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 その日、ライトは祖母の家に一泊した。山奥の掘っ建て小屋のような薬師の家。
 寝ようとしていたら、レインに呼び出された。今日は天気もいいので、少し外を散歩したいと言う。
 夜の散歩。

「うわ。星がたくさん見えますね」
 歩きながら空を見上げたレイン。木々の合間から見える空は、星に覆いつくされている。
「上を見ながら歩いたら危ないぞ」

「お兄様がいるので平気です」
 子供のように兄と手をつなぐ妹。その小さな手がほんのりと温かい。

「あの、お兄様」
 握っている手にギュッと力を込められたのを感じた。

「私、このまま魔力が戻らないのでしょうか。魔力が無限大とか言われて、調子にのっていたから」
 驚いたようにライトはレインを見下ろした。
「調子にのっていたのか?」

「いいえ、ちょっと言ってみただけです」
 自嘲気味に笑う。
「ですが、回復薬は飲んだことありませんでした」

「まあ、そうだろうな」
 魔力無限大は、九が六桁からその魔力が減少しないのだから。

「だから、私の魔力はもともと底が決まっていて。それを使い切ったら終わりっていうものだったのではないか、って思っているんです」
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