最愛ジェネローソ
濃度の高い温泉を堪能し、半個室のお食事処へ通される。
そこにはお品書きがあり、早々と前菜が運ばれてきた。
トマトとナス、ズッキーニの夏野菜で纏められた、生姜が香るマリネ。
あまりのお洒落さに、後退りした。
「す、凄いね」
「ちょっと良いコースにしてみたから、この後も楽しみにしてて」
その後に出されるお料理は、どれもこれも見た目からも、お上品で立派な品ばかりで、最早どれが主菜なのかも分からなくなっていく。
そして、この雰囲気に少なからず慣れ始めた自分は、味を楽しめるようになっていた。
「……これも、美味しい。幸せやなぁ」
頬に手を当て、頬っぺたを落とさないようにと支える。
炙られた鯛の周りには、食用の花が散りばめられていたり。
中心部が程好いピンク色のミディアムレアで提供される、地元のブランド牛。
滅多に戴けるお料理ではない。
つい口が綻ぶのを止められず、感情を駄々漏れの状態で、次々に口へ運ぶ。
「美味しいね――」
よし君と、目が合う。
彼もまた、幸せそうに頬張っていた。
「うん。旨い」
今、この時間を共有している。
何だか、急に感動が込み上げて、目の奥がじんわりした。
幸福な気持ちで完食し、部屋に戻ることにする。
赤い絨毯の長い廊下を2人で進み、エレベーターへ乗り込んだ。
たった2人きりのエレベーターは、少し狭い。
4、5人が乗れるのが、やっとと云うくらいだ。
乗り込んだ流れで、自然と自分がよし君の前に立つ。
すると、不意に後ろから頭を撫でられた。
思わず、驚いてよし君を振り返る。
「な、何」
「……後頭部、可愛いなと思って。そもそも浴衣めっちゃ似合ってる。可愛い……」
「別に、か、可愛くないよ」
「可愛いよ。急に、触ってごめん」
「別に良いけど……。猫か何かやと思っとるん?」
「それに近いかも」
そう言われた後も、ずっとエレベーターから降りるまで、ずっと撫でられ続けられる。
本当に猫か何かになったつもりで、撫でられていた。
好きな人に頭を触れられることが、こんなに気持ちの良いことなのだと初めて知った。
部屋に戻っても、その出来事がむずむずするような、恥ずかしいような、だけど嬉しい感覚のままだった。
また撫でていてほしい、なんて可笑しな欲が出てくるから困った。
――本当に可笑しいな。このままで十分、幸福だと思っているのに。
今も、彼の指先を目で追ってしまう。
そう思ってしまうのは、この部屋に戻って襖を開けた途端、布団がぴったりと2組並べて敷かれているのを見てしまったからかもしれない。
「華さん? どうしたの。そんな顔して」
自分が今、どんな顔をしているのかなんて分からない。
だけど、幸福が溢れて漏れて出でてしまう経験をさせてくれる、よし君には感謝をしてもしきれない。
「今日は、ありがとう。いろいろ気を遣って、考えて、プラン考えてくれて」
何の前置きも無く、素直な自分の気持ちを伝えると、よし君は少し驚いていた。
「本当に幸せやなぁって、思って。美味しいものを戴いて、温泉でゆっくり出来たし。素敵な景色と楽しい時間も過ごせたから」
「俺も幸せだよ」
彼の全体の表情を見れば、笑っているけれど、瞳が何故かしら切なそうに見える。