最愛ジェネローソ
第4話*栗山side あなたの為の1日
6月の晴れ間は、危うい。
貴女はたった1人で重くて堪らない筈の荷物を抱えて、ふらりと何処か行ってしまいそうだから。
だから、それを見逃す前に、しっかりと君を、頼りないその手を捕まえておきたい。
夢の様なゴールデンウィーク休暇から、日常に引っ張り戻された俺は、今日も今日とて元気に出勤していた。
まるで昨日のことかのように、華さんとの非日常が頭の中に蘇る。
一瞬でも気を抜くと、顔がだらしなく緩んでしまう。
気を引き締めて、本日の業務にあたる。
改めて、俺の勤め先は自動車ディーラーだ。
そこで営業、販売職をしている。
ついさっきも朝礼を済ませ、本日ご来店予定のオーナー様の予定を確認したところだった。
この店舗に来店されるオーナー様方は、3ヶ月・12ヶ月点検、車検や自動車保険の見直し、買い替えなど実に様々だ。
いつもどのオーナー様からも、車をただの便利品としてではなく、きちんと相棒として労り、丁寧、そして大事に扱っていることが対話からもよく伝わってくる。
そんな温かい人々の集まる、この空間が俺は大好きだ。
「さて、今日は店内対応が8件か! あとは、丸谷様と吉田様への電話確認も忘れないようにしないとな……」
「さすが連休明けも、うちのエースは休む暇も無さそうだな」
そう言う同僚の御園も、俺と同様に本日対応するであろう顧客リストの詳細を確認して、ファイルにしまい込んでいる。
その仕草のままで御園が、思い出したように尋ねてきた。
「そういえば、どうだったんだよ。彼女との初のお泊りは」
「その言い方、止めてくれないか? 初旅行、だよ。俺にとってのメインは、御園の思っているようなことじゃない」
「強がっても無駄だ。言い方を変えたところで、一緒だろうよ。で? 次のステップには進めたのか」
俺が黙り込むことで、御園は答を察したらしく、憐みの瞳をこちらに向ける。
「彼女さん、疲れて寝ちゃったのか……?」
「まぁ、そんなもん、かな。添い寝は許してもらえたんだけど」
「御の字じゃねえか」
同僚から未だ憐れんだままで、慰められる、この状況に対して複雑な気分がますます濃くなっていく。
あの旅行の夜、一つの布団の中で起きた出来事。
今でも、しっかり脳裏に焼き付いている。
抱きしめた背中越しでも、よく感じとれてしまった。
華さんの震えた細い声。
――華さんを、怖がらせてしまった。
彼女の嫌がることを、俺はしてしまったんだ。
中学時代、俺の友人だった奴らも含め、複数人が寄ってたかって彼女に嫌がらせをしていたのを、散々見ていたのに。
その時の俺も、その時の俺も虫唾が走る程だった筈なのに。
旅館の布団の中で、華さんの震える声を聞いた時、頭を殴られたような感覚に襲われていた。
あの出来事の翌朝も、2日目の観光も、その帰路も華さんはいつもと変わらず、楽しそうに俺にいろんな表情を見せてくれた。
きっと、嫌われていないと願いたい。
自分が情けない。
自身を鎮めながら、慌てずにゆっくり寄り添っていこうって、決めたのに。
――そう、ゆっくりと……。
そこで俺にとっては、かなり重要なことに気が付いた。
「ちょっと待って。俺、そういえばキスも出来てないわ……」
「……プラトニックな関係を保たなければならない、何か理由でもあるのか」
御園は呆気にとられている。
「御園、悪いんだけど、今日の終業後、話を聞いてもらえたりする?」
御園は、二つ返事で頷いてくれた。