最愛ジェネローソ
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終業後、俺と御園の二人きりで、職場からそうは離れていない居酒屋へと来ていた。
枝豆を摘まむ御園が、机に寄り掛かりながら、例の話題を切り出す。
「さて、聞いてやろうか。プラトニックでなければならない理由を」
話を聞く前から、力が抜けている同僚の顔に、妙に落ち着いてしまう。
「だから、違うって。何度、言ったら分かるんだよ」
「だって、まさか初めての旅行で、初めて手を繋いだなんて。もう付き合って、半年になるんだろ?」
実は終業した後すぐ、ここへ向かう前に、少し旅行の内容を大体のあらすじとして、披露していたのだった。
「大事に、したいんだって。学生時代、いろいろあった子だから」
「いろいろ?」
過去の内輪話を他人に言い触らすなんて、華さんには悪いとは思った。
けれど、この過去を知らない人からすれば、俺の重いこの意思は伝わらないと思ったから、久し振りにこんな過去を口にした。
ただ大事にしたい、なんて言葉は単純だ。
言うだけなら、何とでも言えてしまう。
しかし、俺のは、そうじゃないつもりだ。
今までの償い、己への戒め。
華さんと俺の中学時代のあの過去を、御園に一つ一つ打ち明けていく。
華さんがクラスメイト達から、いじめをうけていたこと。
そして、俺もそのグループの内の1人であったこと。
いじめグループのボス的存在に、俺が逆らえず、流されていたことも。
グループのボスとは、同じ部活に所属していたが、そこで揉めて、中学2年になる前に決別したこと。
御園はハイボールを少しずつ、何度も口に運びながら、静かに相槌を打ってくれてはいた。
「――揉めてからは、そいつとは一切、口も聞かず、関わらないようにしてた。華さんの嫌がることをしたくなかったから。後になって、こんなこと言ってても、遅いんだけど」
「そうだな」
「でも実は、俺、華さんが初恋の相手でさ」
御園のハイボールを口へ運ぶ手が、突然止まる。
その表情は、少し険しい。
「御園?」
「男なら、好きな女の子いじめるのが、当たり前って話を聞かされてるのか? これは」
「違う」
言い切れる。
いじめの加害側であることには、変わりはない。
同僚に軽蔑されて、関係を切られたら、どうしよう等と今はどうにもならないことを考えてしまっている。
加害者側が軽蔑されるなんてのは、それこそ当然なことだ。
俺は加害を加えてしまった、だからこそ――。
「好きな女の子を傷付けてしまったからこそ、華さんからも、距離を置いた。俺のせいで、華さんには今までの出来事を、出来るだけ思い出してほしくなかった」
御園の沈黙が、気になる。
まるで、空気に質量があるようだ。
「必死で他に好きになれる人を探して、無かったことにしようともした。実際、他の子とも付き合ってみたりもした。最低だよな、俺」
「……ああ」
「本当に、一生懸命な子なんだよ。顔には出さないのに。一目見た時から、分かってたんだ。いつでも華さんが静かに、ひた向きに頑張ってることを。あの頑張り方も華さんだけが、持ってるんだって。だから、惹かれるんだ、今も」
こんなに1人で、自分勝手に吐き出している俺は、なんて情けないんだろう。
こんなにも言い訳だらけの仕様の無い奴だったなんて、自分で自分に呆れる。
「それなのに、周りに流されて、あんなことを……。悔い改めるつもりで、とにかく今は、初めて本気で好きになったあの子を、めちゃくちゃに甘やかしたい」
口数が一気に減った御園の表情を確認する。