最愛ジェネローソ
「2人の関係に、俺がとやかく言う筋合いは無いけど。その子が付き合ってくれてるってことは、まさか脅したのか? 栗山がそんな奴だなんて、思いたくもなかった」
「そんなつもりは……! ……俺は、無いけれど。分からないか、俺は華さん本人ではないから」
「さっき『大事にしたい』って、栗山は言ったよな」
「……確かに言ったよ」
「 聞こえはいいけど、それってお前が嫌われたくないだけの『逃げ』じゃないのか? 過去に加害者だった自分に酔って、悲劇のヒーローを気取ってる間、彼女はずっと一人でその傷と向き合わされてきたんだぞ」
「そ、それは」
「彼女さんが、怯えているようなことはないか?」
大人になって、再会してからの華さんを全て思い返す。
どの華さんだって、驚く程に表情豊かで。
お店に入って目移りして迷う姿も、上品なゆったりとした仕草で食事をする姿も。
切れ長の目を見開いて驚いたり、小さく膨れっ面をするのも、そして、涙を流させてしまったこともあるけれど。
一番は、よく見せてくれる、恐らく彼女は無自覚であろう、顔を真っ赤にして、柔らかく微笑んでくれる、あの表情。
どの華さんだって、堪らない気持ちになる。
俺は、華さんのことを考える度に、浮かれてばかりいるんだ。
思い返した末に、俺は御園の方へ視線を向け直す。
「俺の頭が、お花畑なのかもしれない。だけど」
「だけど?」
「彼女が怯えながら、あんなにもたくさんの表情を取り繕えるとは、とてもじゃないけど、思えないんだよ」
あの時代の華さんを知ってる人なら、誰もが間違いなく思うに違いない。
こんなに生き生きと、感情を持っていた子だったんだ、と。
中学時代よりも遥かに、俺に気を許してくれているのだと、思いたくて仕方がない。
「栗山……。言い過ぎて、悪かったよ。泣くなって」
「泣いてなんか、ねぇし」
咄嗟に嘘を吐いて、目元を拭う。
本当は、自覚していた。
顔が熱くて、鼻の奥がツンとしていたのも、自覚していた。
御園も気まずそうに、ハイボールへと視線を逃がす。
「栗山の、お前の彼女さんへの想いは伝わってきた。全てを理解は出来ねぇけど。栗山自身が話をややこしくしてるだけで、単純に『彼女さんが大好き』。ただそれだけなんだろ」
「そう。結局はそれなんだ」と答えたいのに、出来ない。
今、声を出したら、堰を切った様に、泣きじゃくってしまいそうで怖かった。
華さんや、彼女を慈しんできた人たちへの罪悪感と、どうしようもない程に止まらない彼女への想いが、自分を飲み込んでしまいそうで怖い。
俺はうつ向いたままで、そっと頷く。
すると直ぐ様、御園は「じゃあ」と声を張った。
「近々、この週末にでも、自分の部屋にでも呼んでみたら」
「……は?」
想定外の提案に、度肝を抜かれた。
今の感情の中には、焦りも含まれている。
「いや、だから! 御園、俺の話、聞いてたんだよな?」
「もちろん。聞いてた」
「じゃあ、なんで。俺は華さんのことを、大事にしたいんだって。この前の旅行で、内心では怖がられたかもしれないのに」
戸惑う俺とは裏腹に、御園はあくまで淡々と続ける。
「だからこそ、少しだけでも確かめておかないと、ここから一向に進まないだろ。その場で延々と足踏みしていたいのか」
「そんなの嫌に決まってる。でも、あんなことした後で、お家デートに誘うって……。俺間違いなく、変態だと思われるじゃん」
俺が本気で頭を抱えていても、御園の態度は変わらず、それどころか少し呆れているようにも見えた。
「栗山のスケベ」
「なっ、男は皆そうだろ!」
くだらない返しをする俺に構わず、御園は小さく溜め息を吐くと言った。