最愛ジェネローソ



「俺が言ってるのは、そういうつもりで呼ぶって事じゃない。『男の部屋に自分から入ってきたら、その意味分かってるよな?』じゃないだろ。栗山って、意外と少女漫画とか読むのか?」

「ぐっ。健全な男子を、御園が弄んでんだろ……」

「部屋に誘ってみて、遊びに来てくれるのなら、問題無いだろ。一緒にゆったり過ごせば良い。だが……」



御園の溜めるセリフを、身体を強張らせて待つ。



「……それで、拒否されたら、今後も関係続けていくのは難しいだろうな。1つの空間で、心休まる事がないなら、苦痛だろ。しかも、元々がいじめの被害者、加害者の関係だったのなら、トラウマだって、まだ密かに抱えているかもしれない」

「まぁ、華さんが嫌がるのなら、俺は無理強い出来ないことは分かってる。俺が今までしてきた行いの結果でもあるから」



数々の心当たりが頭を巡って、深刻な気持ちに苛まれ、また落ち込む。



「そう辛気臭い顔をするなって。彼女さんの拒否する理由が、過去を引き摺っているものだけとは限らないしな」

「と、言うと……?」

「本物のプラトニック主義者なのか。もしくは、籍を入れるまでは貞操を守るっていう、お堅い思想、お家柄なのかもしれないな」



本当にそうなのだとしたら、勘弁していただきたい。

俺は狂おしい程の己の欲と、あとどのくらい戦わなければならないのか。

ただ、その可能性も、なきにしもあらずだ。



「恐ろし過ぎる……」

「怖じ気づいてばかりじゃ、駄目だろ! 男ならやるしかねぇ」

「お、おお。また誘ってみるよ」

「『また』じゃない。『今』だ」



御園が物凄い剣幕で、詰め寄ってくる。

確かに、今の不安を解消する為には、行動するしかない。

急かされるままに、俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを立ち上げる。

その場で、今週末の予定と「家に来ない?」と云う主旨の文章を完成させ、華さんへと送信した。

その後は飲みながら、男2人でお互いの彼女の話題を楽しんで居ると、約10分程で華さんから返信が届いた。



「あ、メッセージ返ってきた」

「何て?」



運命の返信は――。

『お疲れさまです。この前はありがとう。GW旅行、楽しかったね。週末、空いてるよ。お邪魔しても良いの?』

文章の最後には、壁からひょっこりと顔を覗かせるキャラクターが添えられていた。



「こ、これは! 良い感触なんじゃないか?!」

「良かったな」



心なしか御園も、安堵しているようだ。



「御園。ありがとうな。聞いてくれて、こんな話」

「別に。……過去は過去だしな。当人同士の問題だから、外野がとやかく言うことじゃない。俺は、栗山を信じてる」



御園という男は、懐が深過ぎる。

俺は今持っている、この信念を揺らがせたりしない。

御園に聞いてもらった自分の言葉は、どれも本物だから。

俺は、グラスを持つ手に力を込めた。



「絶対に今度こそ、華さんのことを傷付けたくない。もう後悔しない」

「じゃあ、まずは週末、彼女さんをベタベタに甘やかしてあげな」

「言われなくても」



口は強がって、そんなことを言っていてるが、内心では気が張る。

ちゃんと華さんの、いつも通りの微笑みを見せてくれるか、心配しているからだ。

彼女の微笑みは、一瞬でも、強張ったりしないだろうか。


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