最愛ジェネローソ



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今日は、あいにくの雨模様。

華さんは俺の住むマンションまで、最寄り駅から歩くなどと言う。

彼女にご足労をかけておいて、彼氏は自宅のソファの上で、のうのうとひっくり返って待っているだけ、なんて事があってたまるか。

せっかくだが、華さんからのメッセージでの配慮を断った。

斯くして、黒い軽自動車に乗ったまま、俺は駅のロータリーで彼女を待ち伏せしているところだった。

カーステレオから流れる、お気に入りのミュージックリストを口ずさみ、浮き足立ちつつ待つ。

そうしている間に、ホームに急行電車が入ってきた。

あの電車だ。

改札すぐの、バスは不在であるバス乗場に車を移動させ、素早く扉を開ける。

彼女も直ぐ気付いてくれたようで、慌てて、こちらを目指して駆け寄ってくれた。



「お迎え、ありがとうね。お待たせしました」

「全然、待ってない。むしろ雨の中、来てもらってごめんね。濡れるから、乗って」



助手席に乗り込んだ華さんから、ふわりと彼女の香りがした。

心臓が、早く乱れている。

内実は今日一番の心配ごとで、頭がいっぱいだ。

――俺は今までに経験の無い、華さんを自分の住処に招き入れるなんて事をして、俺は平静を保てるのだろうか。

姿を見るだけで、彼女が愛おしくて、抱き締めたくなるのに。



「華さん、今日も可愛い」



自分のシートベルトを締めながら、躊躇うこともなく口走る。

シートベルトを締めようとしていた彼女の手が、一瞬だけ、ぎこちなくなったのを見逃さなかった。



「そ、そんな。……ありがとう」



淡い黄色のブラウス。

華さんの只でさえ柔らかい腕をふんわりと包んで、七分袖の袖口はキュッと絞られていて、下はベージュのロングでタイト目なスカート。

柔らかい雰囲気の彼女に、よく似合う。

さらには、普段は下ろしている緩いウェーブのミディアムヘアが、1つに纏め上げられている。

何だか、いつもより、なお女性っぽい。

沸き上がる感情をいつも通り、ぐっと堪えて、車を発進させた。

マンションへ向かう間、他愛もない会話を交わす。

その時、華さんのバッグの中で――ブブッと携帯電話が短く震えた。

華さんは一瞬、気まずそうにバッグに目をやり、それから俺にバレていないかを確認するようにチラッとこちらを見る。

​――仕事かな。それとも、何か困ったことでも……?

​そんな不安を飲み込み、俺はわざと明るい声を出した。



「今日の昼は、俺が準備するから。楽しみにしてて」

「え、そうなの? ありがとう。楽しみ」



少し驚く華さんに、まずはサプライズ成功だと嬉しくなる。


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