最愛ジェネローソ
そして、家に着くやいなや、華さんは手土産だとデザインもサイズも可愛らしい紙袋を差し出した。
「ありがとう。気なんて遣わなくて良かったのに」
「ううん。お邪魔するのに、手ぶらでは申し訳ないから」
「見て良い?」
「うん」
紙袋から取り出すと、透明の箱に入っていて、おしゃれにリボンが結ばれている。
箱の中身は、ふっくらした体型のくまを型どったマドレーヌ。
男の俺でも思わず「可愛い」と即座に口から漏れて出てしまった。
このくまさんを華さんは一体、どんな顔で選んでくれたのかを想像するだけで、もう愛おしい。
「ありがとう。ご飯の後で、一緒に食べよう」
「うん。じゃあ、ご飯作るの手伝うね」
何の迷いもなく、華さんは袖を捲る。
しかし、俺はそれも遮って「さ、華さんは座ってて」と半ば強引にソファーへ促した。
申し訳なさそうな華さんをリビングに残し、俺は1人キッチンへと向かう。
冷蔵庫から出した食材を並べ、包丁を動かした。
自炊は、一人暮らし故に多少はしている。
メニューは、華さんが好きだと言っていたキノコをたくさん使ったクリームパスタと、さっと和風ドレッシングと野菜を和えただけのサラダ。
我ながら、手際よくパパッと出来た。
しかし「パパッと」と言いつつ、メニューを何にするか迷いに迷って昨晩遅くまで調べていたなんてのは、口が裂けても言えない。
完成した料理を待たせている華さんの為に、リビングへと急いで運ぶ。
「……ほら、できたよ。熱いうちに食べて」
テーブルに並んだ料理に、華さんは目を輝かせてくれている。
そして、華さんはそれらの料理を口に運ぶ度に「美味しい!」と本当に幸せそうに食べてくれた。
その笑顔を見ているだけで、俺の中の強張っていた肩の力が抜けていくのがわかる。
「よし君って、本当に器用だよね。お仕事もこうやって、さらっとこなしてるんやろうなぁ」
「いやいや、実際は泥臭いことばっかりだよ。……でも、華さんにそう言ってもらえるなら、週明けからも頑張れそう」
和気あいあいとした、穏やかで甘い空気。
この温かいパスタの湯気の中に、少しずつ溶けていくのを感じていた。
「大事にしたい」という気持ちが、今ならちゃんと形にできる気がしている。
けれど、楽しい会話の最中にも、華さんのスマートフォンは何度も、何度も、テーブルの上で短く震え続けていた。
彼女はその度に、気まずそうに目を伏せ、チラリと画面を確認しては指を止める。
――やっぱり、何かある。……でも、今聞くのは野暮かな。
その「気配」に気づいていながら、俺はまだ、幸せなお家デートの真っ只中に浸っていた。