私達は結婚したのでもう手遅れです!

武士の母

冬悟さんによからぬ女が近づいている。
着物姿の色っぽい美人。
嶋倉の関係者で夜のお店をしている女の人だ。

『冬悟、私はあなたのことが好きなの』

『俺には妻がいる』

『正妻さんでしょ?愛人の一人でもいいから』

『駄目だ』

『どうして?昔は私を愛してくれたのに』

手に持っていた雑誌で竜江さんをバシッと叩いた。

「勝手に変なセリフを冬悟さんにあてないでください!」

「あ、ごめん、ごめん。なんかモメてるなーって思ってさ」

私の目の前にはオレンジジュースが置かれている。
運転手の竜江さんがウーロン茶なのはわかる。
それなのに私はジュース。
お酒だって少しは飲めるのにジュース。
そして、チョコレートとビスケットが皿に入っていた。
まるで保育園児のおやつ。
ここは『なにかお酒を飲む?』『水割りでいいかしら?』なんてお店なんですよ?
それなのに私は子供のおやつセット。
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