私達は結婚したのでもう手遅れです!

紫色の細かいキラキラとした寒天を白あんに纏わせた紫陽花。
それを茶菓子皿にのせ、父がまるで鑑定家のような目でじっと見つめていた。
皿を回し、角度を変え、父はその菓子を丁寧に扱う。

「腕をあげたな。帆希(ほまれ)

「いえ」

弟の帆希が頭を下げた。
父に褒められるなんてすごい。
帆希は父も認めるセンスがあった。
息子の成長が嬉しいのか、わかりにくいけど、父の口角がわずかにあがっている。
いそいそと私は帆希が作った紫陽花を店頭へと運んだ。
梅雨の季節にぴったりな紫陽花の練りきり菓子。
つややかな寒天は雨にぬれた紫陽花のようで本物の紫陽花みたいだった。
うっとりとそれを眺めていると、帆希が私の仕事を手伝うつもりなのか、他のどら焼きやきんつばを黙って並べていた。

「帆希、私一人で大丈夫!工場で仕事があるでしょ?」

「いえ」

短い返事。
昔から帆希は他人行儀な子どもだった。
< 284 / 386 >

この作品をシェア

pagetop