バーチャル彼氏
「ボクノ ナマエヲ オシエテ クダサイ」


ぐす……。


涙でにじんだ視界の中、機械的な声が届いた。


手の甲で涙をぬぐい、そっと振り返る。


そこには――。


額に汗を光らせ、呼吸を荒くした、向日葵の姿が――。


「な……んで?」


「ボクノ ナマエヲ オシエテ クダサイ」


向日葵の、笑顔。


ずっとずっと好きだった向日葵の、本物の笑顔。


「向日葵……」


私が呟くと、向日葵は大きく首を振り、それを否定した。


「違うよ。僕の名前は……瀬戸成樹(セト ナルキ)」


瀬戸成樹――。


頭の中でその名前を繰り返す。


「会うのは2度目だね、泉ちゃん」


「ひまわ……成樹さん」


「弟が世話になったらしいね」


その言葉に、私はポッと赤面する。


突然、瀬戸君とのキスを思い出してしまったからだ。
< 158 / 163 >

この作品をシェア

pagetop