異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
「きっと真緒は楽団の事を気にしているんだろう? あの楽団は君にとっての大切な居場所だもんな。もちろん楽団は辞めなくていい、ちょっと遠くて大変かもしれないが長谷か俺が送迎するから土曜日は思う存分音楽を楽しんでおいで」


「いいんですか?」


「当たり前だろう。俺の我儘で東京に引っ越してもらうのに真緒にばかり我慢させられないよ。それに俺も真緒のオーボエのファンだからね。長谷には特別手当てを出すって言えば多分大丈夫だろう」


「私、また泣いちゃいそうです」


「本当に真緒は泣き虫だなぁ、まぁそこがまた可愛いんだけどね。でも今は運転中だから少し我慢してくれないか。いや、我慢は良くないな。うん、じゃあ信号のところで思う存分泣いてくれ。それなら車が止まるから真緒の涙を拭いてあげるよ」


 真剣な顔で泣いてくれなんて言うもんだから可笑しくて笑ってしまった。


「ふふっ、泣かないですよ。嬉しくて自然と笑顔になっちゃいます」


 タイミングよく信号で車が止まった。「全く、君は」と私の方を向く総介さんの瞳はいつもの様に穏やかで優しい。大きな手のひらで私の頭をスルリ、スルリと二度撫でて運転を再開した。


 頭を撫でられるのは何度もされているはずなのに、何度されても嬉しくて恥ずかしい。ボンっと顔が赤くなってしまったに違いない。顔が、身体が熱い。
< 128 / 170 >

この作品をシェア

pagetop