異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜

「あ〜、今日のリバーダンス結構よかったですよね！」


　同じオーボエ奏者の山口絵里さん（やまぐち　えり）と休憩時間に話をする。もちろん合奏中は私語はなるべく禁止。私より少し年上の絵里さんも中学生のころからずっとオーボエを吹いているので境遇が同じで何より気が合う。


「だね、今日の真緒ちゃんのCからの連譜綺麗にハマってたよ」


「あぁ良かった〜私連譜苦手なんですよねぇ。あ、練習終わったらこの前行ったウィーンのおみやげ渡しますね！」


「楽しみ〜、人見知りなのによく一人で海外旅行に行ったよね。それに真緒ちゃんのお母さんがよく許してくれたよ。楽しかった？」


「まぁ、毎日のように説得して頻繁にメールを送る事でやっとお許しが出ましたからね。でも本当に本場のオペラは本当最高でした！　さ、戻りましょう」


　本当にオペラは最高だった。けれどウィーンの事を思い出すと一番最初に浮かんでくるのはあの日の彼との出会い。一週間経った今でも鮮明に目が、耳が、身体全てが総介さんの事を覚えている。
　ぶんぶんと顔を横に振って思いを振り払う。今思い出しちゃ駄目だ。私と彼じゃ住む世界が違い過ぎた。やっと貯金が溜まりウィーンに行けた私と、スイートルームに軽々と泊まれる彼。どう考えても差があり過ぎた。すぐに自席に戻りもう一度チューニングをする為に私は手を叩いた。気持ちを切り替える為にも大きく張りのある音で叩いた。全員の音が鳴り止み休憩明けにもう一度Aの音でチューニングをする。