異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
 三ヶ月後の十二月に迫った私の所属している一般楽団の毎年開催している定期演奏会の為に演奏会の曲目を毎週土曜日の夕方、地元の中学校の音楽室を借りて練習をしている。まだ定期演奏会は五回目と年数は浅いが地元の方を初め口コミで遠方の方も見られ始めるようになり、幸い定期演奏会は毎年盛り上がりを見せている。楽団のみんなもこの演奏会の為に日頃から練習を頑張っているのだ。


「じゃまずはリバーダンスから」


 中央に指揮者が立ち合奏を始める。伊田卓郎先生(いだ たくろう)はプロのクラリネット奏者で有名な楽団に所属しながらもうちの楽団の指揮者も勤めてくれている。私の学生からの付き合いなので十年以上の付き合いだ。
 『リバーダンス』はビル・ウィーラン作曲のアイルランドの伝統音楽を踏襲した曲で独特な世界観が特徴の曲だ。一番初めにフルートの穏やかな湖にいるようなソロから始まり、段々と盛り上がっていき今日の最後は最高潮のまま終わるという迫力のある曲だ。オーボエもソロまではいかないがかなり目立つところが多く、しかも連譜ばかりなのでかなり指が疲れるし、吹き終わった時には少し息も切れるほどスピードのある音で吹く。でも私はこの曲が大好きなのだ。最後の音を奏でた時の響きは演奏が決まった時こそいい音が出て吹いている自分でさえブルっと震える時がある。
< 48 / 170 >

この作品をシェア

pagetop