クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
その日は、新しいホテルのオープニングパーティーが開かれていた。
国内7店舗目になる高遠ホテルが、横浜に誕生したのだ。
高遠実影は、横浜でも人気の高いエリアに新しいホテルを建設した。
その記念すべき完成披露のパーティーだ。
海外からの観光客やリピーターが期待できそうだし、
古くから人気があった東京都内のホテルとの相乗効果を狙えると考えたのだろう。
真新しいホテルのパーティーは華やかに賑わっていた。
弦楽四重奏団の生演奏が流れている広間は、大勢の招待客で溢れている。
『遅くなってしまったわ…。』
開宴時間より少し遅れて和優はホテルに着いた。車が渋滞していたのだ。
『ロングドレスにしなくて良かった…。』
今日は上品なシルクのスーツ姿だから、足元が軽やかだ。
少し乱れた髪を整えながら、和優は急いで会場に入った。
人混みの中から父親の姿をやっと見つけ、何とか声を掛ける。
「お父様。」
「ああ、和優。来てくれたのか。」
「はい、遅れて申し訳ございません。」
「柊哉君も一緒かい?」
「いえ…、柊哉さんは今、カリフォルニアですから。」
「ああ、シリコンバレーか。相変わらず忙しそうだ。」
「ええ…ほんとに…。」
「じゃあ、和優はゆっくりしていきなさい。」
二言三言、短い会話を交わすと実影は顧客たちへ挨拶に行ってしまった。
ほうっと和優はため息をついた。
『これじゃあ、私がパーティーに来た意味は無さそうね。』