「お前は一人でも大丈夫」ですって?!~振る際の言葉にはご注意下さい。
千夏はそれを面白そうに見つめ、笑った。
「磯田くんのあんなに慌てた様子、初めて見たかも……。よっぽど今の恋人が大切なのね。何かあったのかしら?心配ね」
磯田の話をしながら嬉しそうに笑う千夏を見つめながら、陽翔は千夏の隣に腰を下ろした。
「千夏さんは磯田さんが気になりますか?」
「えっ……。ええ、それは一緒に仕事をする仲間だし……」
「ホントにそれだけですか?」
グイッとい近づいてくる陽翔から離れるため、後ずさろうとするも、そうはさせないと陽翔の腕が千夏の腰に巻き付いた。そして陽翔は千夏の身体を優しく包み込む様に抱きしめた。
「千夏さんのかわいい姿が全国放送されたら、千夏さんを誰かに取られちゃいそうで怖い」
「何を言ってるのよ。私はかわいくないし、取られるとか……」
「じゃあ、千夏さん俺のモノになってよ」
いつになく真剣な声の陽翔と視線が合うと、その瞳の奥にある熱く、強い感情に、目眩を起こしそうになった。
「はっ……陽翔くん……」
ゆっくりと身体がソファーの上に倒され、陽翔が覆いかぶさるような形で千夏の上に乗ってきた。
「千夏さん、俺……千夏さんのこと好きだ」
陽翔くん……。
高鳴っていく鼓動。
「千夏さんは俺のことどう思ってる?」
「私は……」
陽翔くんとは、まだ出会ってから日は浅いけれど、側にいて欲しい人だ。陽翔くんと一緒にいる時は素の自分でいられる。こんな風にドキドキさせられたり、動揺させられるのも陽翔くんだけで……。
私は陽翔くんのことを……。
「そんなに悩まないで、俺の気持ちを押しつけるともり無いですから……。俺が千夏を好きだってことは知っていてもらいたかったんだ」
眉を寄せ、悲しそうな顔をする陽翔の表情に、千夏の胸が締め付けられた。陽翔くんにはいつも笑っていてもらいたい、こんな顔をさせたいわけでは無い。
だけど……。
腑に落ちないことが沢山ある。
陽翔くんはホントに私のことが好きなのだろうか?
年の離れた、こんなおばさんの何処が良いというの?
年上に興味が出る年頃なのか?
陽翔くんの年上への興味が無くなったら、私は捨てられる。そしてまた言われるんだ、あの言葉を……。
千夏の中に疑問と不安しか浮かんでこない。
陽翔くんは年上に夢を見ているだけだと思う。きっと彼も、元彼達と同じように『お前は一人でも大丈夫だろう』と言ってくるに違いない。だから私は心に蓋をした。陽翔の思いも、自分の気づき始めたこの思いも、全てを箱に入れ心の奥底にしまい込んだ。