フヘンテキロマネスク
「おねがい、手、はなして、」
これ以上乱される前に、と思って掴まれてる手を揺らして催促する。けれど、より強くぎゅぎゅ、と握りしめられて。
「じゃあ、俺からのお願いもひとつ聞いてくれる?」
「……それは内容による」
鈴本くんの『お願い』なんてどんなことを言われるのかわからなくて身構えてしまいそうになるけど、でもクラスマッチの時の『頼み』は変なことでも難しいことでもなかったから、ますます読めない。
鈴本くんは私の瞳の奥にまで問いかけてくるように、まっすぐに見つめてくる。ほんとうに、眩しいくらいにまっすぐだ。
「真咲」と、言い聞かせるように、ちゃんと聞いといてね、というように名前を呼ばれた。
「強がるところも真咲の一部なんだとしたらもうそれでもいいから、でももしどうにもならなくなったら、そのときは他の誰でもなく俺を頼って」
……なんなんだ、それ。
そんなの、鈴本くんにメリットなんてないじゃん。
「わかった?」
有無を言わせないその声に、抗えなくてそのままコクリと頷けば、鈴本くんは笑って私の手を放す。
鈴本くんは私を待っていたくせに、その日は結局、一緒に帰らなかった。