That's because I love you.
電車の中で、まりあはドア付近に立ち窓の外の夜景を眺めていた。
側の座席に座るカップルは、先程からずっと人目を気にせずイチャついていた。

「ゆい~、好き~。早く部屋行きてぇ~。」
「ねぇもう、酔い過ぎだから~っ。」

まりあはカップルの会話を聞きながら、表情の無い顔でぼーっとしていた。

(……楽しい時間は、あっという間だなぁ…。)

最近、まりあの中では、ある変化が生じていた。
明広と会う前や会っている間は幸せだが、彼と離れた後はいつも、言い様のない巨大な寂しさに襲われる様になっていた。

(…明広さんは、どうして私と一緒に居てくれるんだろう。…いつまで…一緒に居てくれる…?好きでも何でもない、お情けで付き合ってるだけの私と…いつまで…。)

手すりを握る右手に、無意識に力が込められる。
その時ふと、誕生日の日に彼から囁かれた言葉が脳裏に蘇った。

"まりあは僕の、大事な彼女だよ…ちゃんと。"

「ーーーー………。」

まりあの暗い瞳に、さらに陰りが差す。
それを聞けた時は確かに嬉しかったのに、今ではその言葉では、まりあの不安を拭い去ることは出来なかった。
決定的な何かが、欠けていた。

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