That's because I love you.
(…まぁ…浮気はされてないみたいだし、まりあが良いなら良いのか…?御木本サン…ちょっとでもまりあに愛を持ってると良いけど…。)

華がうーんと唸ったその時、偶然食堂の前を通り掛かった明広と目が合った。

「…あ。」
「…明広さん…!」
「…どぉも~。御木本サン…。」
「…こんにちは。」

顔を引きつらせながらお辞儀する華に、明広も軽く頭を下げる。
まりあの友人である華には、明広は割と礼儀正しいのである。

「明広さんもお昼ですか~?」
「いや、通り掛かっただけ。次の講義C棟だから。…まりあ、丁度よかった。さっきバイト先から"欠員が出たから出勤してくれ"って電話来てさぁ。悪いけど今日のデートキャンセルでいい?」
「………。」

まりあはこういう時いつも二つ返事で"大丈夫です"と笑って許すのだが、今日は一瞬の間があった。

「…ん?」
「…大丈夫です!バイトがんばってくださいね。」
「…ありがと。今度埋め合わせするから。」

去っていく明広の後ろ姿を、華はあんぐりとしながら見つめる。

「…まりあッ!いいの!?今日はあんたの…」
「いいんだよ~。私のワガママなんかに付き合わせられないし…。」
「…もしかして…御木本サンに言ってないの?」
「…うん。ほんとにいいの…ありがとう、華ちゃん。私なんかのことで気遣わせたくないし…バイト行かないでなんてワガママ言って、浮気されちゃったら嫌だから…。」
「……まりあ…。」

"そんなことで浮気なんかされないよ!"とは、言えなかった。
過去素行が最悪だった明広のこと、少し腹が立てば浮気どころか、まりあは捨てられてしまうかもしれないと華は考えが至ったのだ。
つい先刻まりあから"彼から好きと言われたことがない"と知らされたばかりで、華の明広への信用度は今、奈落の底だったのである。

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