俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
「俺に合わせてください」
「うん…」
音楽があるわけじゃない。
聞こえるのは雨の音、静かな2人の足音。
「そう、上手だ」
それは激しいタップを踏むような社交ダンスじゃなく、ゆっくり流れる時間を2人で感じ合うものだった。
背中に当てられた手は戸惑う動きすら包んでくれる優しさで。
こんなに格好いい王子様みたいな人と踊れちゃうなんて、どこか恥ずかしい…。
「…どうして泣いているのですか、エマお嬢様」
どうしてかな…自分でもよく分からない。
泣いているつもりはないし、すごくすごく悲しいわけじゃない。
ただ色んなことが詰め込まれすぎてて、大変だったなぁって。
それなのに今のダンスでぜんぶ消えちゃうんだもん。
「…ネックレス…千切られちゃった……っ」
「…それは俺のせいでもありますから」
「違うよ、わたしのせい……でもないけど、あいつのせいだよ…っ」
わたしのせいじゃない。
ハヤセのせいでもない。
やっぱりあいつは悪魔なんだ。
「…なら、もうあの男のことは考えないでください。それで許します」