俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
最近になって気づいたこと。
この男はわたしの扱いが上手すぎる。
これもSランクの力ってやつなのかもしれないけど…。
いつ注いだのか分からないハチミツレモンドリンクがスムーズに渡されて、コップを受け取ってゴクゴク。
「おいしいっ!ねぇハヤセ、一緒にサッカーして!」
「俺とですか?」
「うん。だってお嬢様ぜんぜんやってくれないんだもん」
体育教師だってお嬢様には指図できない弱い存在だから。
この学校の教師は女より男のほうが弱くて、だから前の裁縫の先生はかろうじて命令できていたのだ。
「わたしサッカーしたい…」
公立高校なら、こんなの普通にできた。
きっと今頃わたしは誰よりもボールを追いかけて走っていた。
放課後だってカラオケ行ったりファミレス行ったりしてた。
でも、こればかりはもう仕方ないから。
「…でも服汚れちゃうね、やっぱり───」
「エマお嬢様、俺は手加減は苦手ですが覚悟はよろしいですか?」
え、やってくれるの…?
お嬢様からそんなことを命令される執事なんか見たことないから、てっきり断られると思っていたのに。