置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
着いたと思われるホテルの看板にはパールビレッジリゾートの仮看板が元のホテルの看板の上にかけられていた。

「ここ、だよね」

「ここだな」

2人で目の前に立ち呆然としてしまった。
写真で見るよりも古めかしい。
ドアの外から見る限り、エントランスは狭くフロントも小さい。何故かフロントの隣に食堂が見える。
元々は真紅のカーペットと思われるが今はかなり薄汚れており、ドアの外からでも行き届いていないことが伺えた。

エントランスの自動ドアも小さく、マンションの入り口のよう。

私たちが固まっていると車が近寄ってきた。
鍵を管理している仲介業者だ。
私たちは鍵を預かると相手はすぐに戻って行ってしまった。
突っ込みたいところはたくさんあったが呆気に取られている間に帰られてしまった。

「ひとまず入るか」

「そうだね」

私たちは鍵を開け中へ入っていった。
足を踏み入れると空気の入れ替えもしていなかったのかカビ臭さを感じる。
潮風もあり余計に匂いが強く感じる。
せっかくの大きなホテルなのにエントランスが小さくごちゃごちゃとしているのがもったいなく思った。
その上ロビーにソファが数えるほどしかなく、このホテルのアンバランスさを醸し出していた。
壁紙はなぜか幾何学模様で取り止めのないまとまりを感じさせざるを得ない。

「これは酷いな。何もかもやり直しだな」

「うん。思っていた以上かもしれない」

「あぁ」

私はタブレットを取り出し写真とメモを取り始めた。
食堂は昔ながらの雰囲気でがっかりした。ここにきた客はこのホテルに来てどれだけがっかりさせられたのだろうと思うとなんだかいたたまれない。また来ようとは思わなかっただろう。

厨房などのバックヤードから客室内の確認。ホテルの外の景色も全て写真と記録を残した。

「立て直したほうがいいレベルだな」

「でも立て直すよりはリノベーションの方が安いよ。それに建物自体は頑丈そう。きちんと業者を入れてそこは確認済みらしいしね」

「まぁそうだよな。それにしてもさ……酷いな。全面改装だな。骨組み以外は壊すつもりでもいいかもしれないな」

「そうだね。現状を最大限利用したらパールビレッジリゾートの格が落ちるね」

ホテルの外を見て回るとすぐに砂浜に面していたことに驚いた。
真っ白な砂浜が青い海とのコントラストを引き立てる。
ガーデンには椰子の木が無数に植えられておりタイルで貼られた小径がとても素敵。
東屋がありそこでヨガとかマッサージとかを受けたら気持ちがいいだろうなぁ。
ライトアップしたらとても素敵だろうな。
見るとプールも併設されており海を見ながらプールでのんびりすることもできるみたい。
とても贅沢なガーデンがあり、私は一気に魅了された。
真夏の今はハイビスカスやブーゲンビリアが咲き乱れている。他にもデイゴや月桃が咲き誇っていた。よく見るとアダンの実もみえる。
凄くいい。素敵。
この庭だけはあまりいじることなく活用できそう。
何枚も写真に収めいると徐々に日没が近づいていることに気がついた。まだ時間はかかりそうだが空は茜色に変わってきていた。
到着した時の突き抜けるような空の青さに感動したが今は一面茜色に覆われ幻想的な風景を醸し出している。
夕焼けがこんなに綺麗だなんて忘れていた。
写真を撮る手が止まる。
ふと気がつくと加賀美くんも引き込まれるように見入っているとこに気がついた。
加賀美くんの整った横顔が夕日に照らされとても凛々しく映る。
私はまた空を見上げていると加賀美くんが話しかけてきた。

「来てから何度も思うけど、空って広いな」

「うん」

「こんなに広いなんて忘れてたよ。こんな景色があるんだって見て欲しいな」

「そうだね。心が震えるってこういうことかもしれないね」

「そうだな。飽きることがなくずっと見ていられるな。だからこのホテルは外に力を入れていたのかもしれないな。こんな素敵なガーデンやプールサイドから見られたら最高だからな」

「そうだね。この素敵な景色を見てほしくてここに力を入れていたんだね。私たちもこの景色をゲストに見てほしいね」

「あぁ。ほら、この景色を写真に収めておけよ」

「分かってるよ」

また何枚か写真を撮った。
夕日に照らされた庭木の影もノスタルジックな雰囲気をだしておりカメラに収めた。

「ひとまず宿泊するホテルに移動しようか」

「そうだね」

レンタカーに乗り込むと市街地にあるホテルへ向かった。

ビジネスホテルだが清潔感があり古さを感じさせない。
それぞれの部屋に荷物を置いたところで夕飯を食べにまた歩きで出かけた。
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