置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
無言のままケーキが運ばれてくるのを待つ。
大介くんは笑っているがなにも話してこない。

ケーキとコーヒーが届くと私はスマホで記録用に写真を撮った。
すると店員さんがお二人の写真もお撮りしましょうか?と親切にも声をかけてきてくれた。

「お願いします」

大介くんがそういいスマホを手渡した。
ケーキをカメラの方に向けると私の隣の席に移動してきて肩を抱かれ写真を撮った。
私は真っ赤になった自覚があったが、店員さんになにも言えずに写真を撮ってもらった。

「ほら、俺ら付き合ってるように見えるんですよ」

耳元で囁かれ、ドキドキが止まらず俯いてしまった。

大介くんは向かいの席に戻り、ケーキを半分ずつにカットしてくれた。
両方の味が知りたいと思っていたから半分にしてくれて正直嬉しかった。言わなくても分かってくれるこの感じが凄く心地よかった。

「どっちも美味しいね。甘いもの食べると幸せだね」

「この飴細工が繊細で写真に残したくなる気持ちがわかりますね。しかもこの飴細工はテイクアウトだとないらしいですよ。限定っていうところもまた惹かれるポイントですね」

「本当だよね。やっぱりなんでも共通してるけど限定って言葉にみんな弱いよね」

「そうですね。つい手が伸びますね」

大介くんはいつもと同じように私に接してくれてありがたい。
あんなこと言われた後だからどんな顔したらいいのか分からなかったけどいつもと同じようにしてくれる大介くんにやっといつも通りの会話ができた。なんならさっきのは聞き間違いかもしれないとさえ思うくらい普通だった。

このホテルを後にして次のホテルへとハシゴした。毎年クリスマスの飾り付けが話題になるホテルで、今年はさらに今までとは違った趣向を凝らしているらしい。それも見ておきたいと思っていたので付き合ってくれるという大介くんと共に移動した。
今年はキャンドルナイトを開催するという。クリスマスイブに点灯式を行いゲストが購入したキャンドルに火を灯し永遠の愛を誓うというものだった。
当日までの間はキャンドルの販売をしており、購入したキャンドルにデコレーションを楽しむらしい。確かにツリーのまわりを無数のキャンドルで照らされていたらさぞ幻想的になることだろう。当日また見にきたいという集客も見込める。
なるほどね。

「俺たちも書きますか?」

「え?」

「じゃ、俺のお願い事を書いてみます。槇村さんが俺の方を向いてくれますようにって」

どうして大介くんはこんな直球なの?
私はまた顔が火照るのを感じた。
大介くんの顔が見られずにいると、大介くんはその場を離れ購入しにいってしまった。

戻ってくると手には透明なガラスの中に赤いキャンドルが入っていた。

「この瓶に何か入れたり書いたりするみたいです」

そういうと大介くんはハートを大きくペンで書き込み、裏側に名前を書いた。

「人に見られたら恥ずかしいから裏にこっそり書いてきました」

大介くんのそんな行動にキュンとしてしまった。

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