置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
両親に夕飯の時室長から打診された沖縄の話をすると心配そうな顔をされた。

「奈々美、無理せず一度辞めたら?」

「ううん。辞めたくない。負けたくない」

私はそう伝えるが母の心配そうな顔を見るだけで決意が揺らぎそうになる。

「でも……お母さんは心配なの。これ以上嫌な思いして欲しくないの。あんな人を二度と奈々美の視界に入れたくない」

「ごめんね、お母さん。心配かけて。私も会いたくないけど室長が配慮してくれて、私が石垣島のホテルのリノベーションとスタッフの教育を任せるって言ってくれたの。気心の知れた同期と組むから心配もないし、沖縄ならいつでも帰って来れるからお母さんだって見にこれるでしょ?とてもやりがいのある仕事よ」

物はいいようだよね。気心の知れた同期だなんて。確かに言いたいこと言い合えるから嫌いなやつだけど気楽ではあるか。

「奈々美。お父さんはお前の決めたことには口を出さないよ。でも、いつでも私たちがいるって忘れないでくれ。絶対に困ったら頼るんだ。それだけは約束してくれ」

私は頷いた。
今回のことで本当に迷惑をかけたと思う。
私の知らないところで今もお父さんは動いてくれているからお父さんだって辛い思いをしたと思う。矢面に立ち、私のことを考えてくれるお父さんに感謝しかない。
結婚式でも向こうの両親と共に頭を下げて回ってくれたった聞いた時には、なんて親不孝なことをしてしまったんだろうと思った。
それでもお父さんは私に何も言わず、いつでも頼れと言ってくれる。
お父さんやお母さんの子でよかった。

夜、やっとスマホを開き同期で一番仲のいい宮崎さとかにメッセージを送った。
さとかだけは信用できると思ったから。
もちろん他の同期や同僚を信用してない訳ではない。けれど今の心を話せるのはさとかだけだと思った。

【心配かけてごめんね。週明け月曜日から出勤するね。室長が配慮してくれてそんなに経たず沖縄勤務になることになったよ。また来週からよろしくね】

送信して1分と経たずに着信があった。
さとかからだった。
私は意を決して通話ボタンを押した。
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