嘘は溺愛のはじまり
外は冬本番の寒さだけれど、私は今日も、暖かい朝を迎える――。
だけど今日は、いつもと少し違う暖かさで……。
「……っ?」
何がいつもと違うのかを、ついさっきまで微睡んでいた頭ではすぐには思いつかなくて、私は瞼をゆっくりともち上げた。
いつもは後ろから抱き締められて目が覚めるけれど、今日は……私の目の前に、伊吹さんがいる。
私に腕枕をして、私を抱き締めて眠る、伊吹さんが――。
――昨晩、いつも通りベッドの端で眠ろうとする私を伊吹さんは少しだけ強引に抱き寄せて、「結麻さんが嫌じゃなければ、最初から抱き締めて一緒に眠りたい。……ダメ?」と私の耳元に囁き落とした。
途端に熱を持って頬が赤くなる私を見た伊吹さんは、否定も肯定も出来に固まってしまった私に、満足そうに少し微笑んで「じゃあ、おやすみ、結麻さん」と言って、私をギュッと抱き締めたまま、眠りに落ちた。
抱き締められたまま眠るなんて思ってもいなくて。
私はしばらく呆気にとられたままだったけれど、伊吹さんの腕の中はやっぱり暖かくて落ち着くからか、次第に私も眠気が襲ってきて……。
私は生まれて初めて、誰かに抱き締められたまま眠った――。
――きっとお互い何度か寝返りを打ったのだろうけど、結局こうやって最初とほぼ変わらない体勢で目が覚めた、と言うことになる。
なんだか、不思議……。
そっと伊吹さんの寝顔を盗み見ながら、私は昨夜のことを思い返していた――。