嘘は溺愛のはじまり

――あのあと、当たり前のようにカフェの戸締まりをする伊吹さんを、私は首を傾げながら待っていた。


「ん? 結麻さん、どうしたの?」

「え、っと……」


どう質問して良いかも分からないから、曖昧に、もう一度首を傾げるしかなかった。


「……ああ、これ?」


戸締まりをするために楓さんから預かった鍵を掲げて見せたので、私が小さく頷くと、今度は伊吹さんが首を傾げる。


「……もしかして、楓から何も聞いてない?」

「楓さん、から……?」


私は再び首を傾げる。

伊吹さんの言葉の意味が、さっぱり分からない。


「あー、あいつやっぱり言ってないか」

「……なにを、ですか?」

「うん、楓と俺のこと」

「楓さんと、伊吹さんのこと、……ですか?」

「そう」


私は、聞いていない、と言う風に、首を横に振った。

伊吹さんはそれを見て、ふ、と小さく笑って「楓は、相変わらずだな」と呟く。


「楓は、俺の弟なんだ」

「……え?」

「正真正銘、血の繋がった、実の弟だよ」

「おとうと……?」


そう言われてみれば、確かに似ているところは多い。

物腰の柔らかいところや、優しい表情や物言い、だけど芯はしっかりとしていて、どこか有無を言わさないような強い部分があるところも……。


戸締まりを確認した伊吹さんは、私の手をとり指を絡めるように繋ぎ合わせて、マンションまでの道のりを歩き出す。

週末には一緒にどこかへ出掛けることは多くて、いつも手を繋いではいたけど……こんな風な繋ぎ方で歩くのは初めてで……私は少し気恥ずかしかった。

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