嘘は溺愛のはじまり
私と野村さんのやりとりをクスクスと笑いながら眺めたあと伊吹さんは、「じゃあ、今日もよろしくお願いしますね」と言って、手を振りながら伊吹さんは役員室へと消えて行った。
野村さんが深々と頭を下げる。
私も慌ててそれに続き、頭を下げたままちらりと野村さんを窺うと、彼女はこちらを見てニヤリと笑っていた……。
い、嫌な予感が……。
「さ、さて、お仕事、お仕事……」
私はわざとらしくデスクへと向き直り、昨日の仕事の続きを……と思い、はたと気づく。
……そうだ。
昨日は、私、途中で──。
「あ、の、野村さんっ。昨日は、すみませんでした!」
「えー? あー、いやいや、なんで若月ちゃんが謝るのよー?」
「だって、完全に仕事の途中で、しかも勝手に早退するようなことになってしまって、」
「そんなの若月ちゃんのせいじゃないから」
「でも、急に抜けて、ご迷惑をおかけして……」
「いやいや、ほんとにあれは若月ちゃんのせいじゃないでしょー? それに……いや、そうだな、悪いと思ってるなら……」
「?」
「うん。専務との関係を、洗いざらい、聞かせて貰おうかなー??」
美しい顔で、不敵な笑みを浮かべる野村さん……。
うっ……、こわい……。
「……実はあの時さぁ、私も専務と一緒に、書庫に駆けつけたのよー」
書庫から奥瀬くんの移動用の内線に電話をした、私のあのたったのひと言で奥瀬くんは異変を察知してくれて、専務室へ直接内線をかけたのだそうだ。
慌ただしく出て行こうとする伊吹さんに、野村さんが声を掛けると、伊吹さんは「結麻さんが書庫に閉じ込められたらしいです!」と顔面蒼白で答えたらしい。