嘘は溺愛のはじまり
あの書庫の鍵は以前から少し不具合があって、内側からは開けにくくなっている。
そのため、万一に備えて、総務課と秘書課でそれぞれ二本ずつ鍵を保管することになっていた。
つまり、書庫の鍵はあの時――
私が一本。
総務の谷川部長が一本。
その他に、総務課と秘書課に、それぞれもう一本ずつ存在していたと言うこと。
伊吹さんから私が書庫に閉じ込められた可能性を聞いた野村さんは、秘書課で保管していたもう一本の鍵を持って、伊吹さんとともに書庫へと駆けつけてくれたのだそうだ。
結果的には、奥瀬くんが総務課で保管していた鍵を持ってきてくれたうえに、伊吹さんと野村さんよりも先に駆けつけて開錠してくれたお陰で、野村さんが持参した鍵は使うことはなかったらしいけど。
「もう、専務の焦りようったら、すごかったんだからー。うふふっ」
「……っ」
「それに専務は若月ちゃんのこと『結麻さん』って下の名前で呼んでるしっ。これはもう、確定的でしょー? 専務ったら、ぜんぜん隠せてないって言うか、隠す気ないんだもんー!!」
そう言って、嬉しそうに笑う野村さん……。
私は、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
野村さんにも「若月ちゃん、顔、真っ赤―! かわいい~!!」ってからかわれて……。
「ほんと言うとさー。実は若月ちゃんが来た初日から分かってたんだよねー」
なんて言うから、私はとてもびっくりした。